心タンポナーデは、国家試験の試験範囲に含まれていますね・・・
また循環器病棟やICU、手術室で働いていると、たまに耳にする病態です。
病態をしっかり理解することで、患者さんに今後起こりうることや治療方法について予測することができます。
心タンポナーデは急速に進行すると死に至る可能性があります。
よって迅速な診断と治療が非常に重要です。
患者さんの命を守るために、心タンポナーデの病態についてしっかりと学びましょう。
心タンポナーデとは
心タンポナーデとは
簡単に言うと・・・・
心臓の周りに液体(血液や膿など)がたまり、心臓が正常に働けなくなる状態
もう少し詳しくいうと・・・・
心臓は「心膜」という2枚の薄い膜で包まれています。
心膜は、心臓を外部の衝撃や病原菌から守る役割も持っています。
その間にある「心膜腔または心嚢」には、心臓がスムーズに動くための潤滑油の役割を果たす約10~20ccの液体(心のう液)が入っています。
心タンポナーデは、何らかの原因でこの心のう液が急速に増え、心膜腔内の圧力が上がることで、心臓が十分に拡張できなくなる状態です。
これにより、心臓のポンプ機能が失われ、血圧が低下し、ショック状態に陥ります。
進行すると、急速に命に関わる事態となる緊急の疾患です。
心タンポナーデの原因は??
心タンポナーデの原因には以下のものがあります。
- 胸部外傷(交通事故、刺創、銃創)
- 大動脈解離が心臓に及んだ場合
- 急性心筋梗塞による心破裂
- 心膜炎(ウイルス性、細菌性、結核性)
- 悪性腫瘍の進行(食道がんや肺がんの心膜転移)
- 心臓カテーテル治療中の穿孔(狭心症・心筋梗塞に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、不整脈に対するカテーテルアブレーション中に起こる心臓の血管・筋肉の破れ)
心嚢液が溜まったらどうなるの?
心タンポナーデの症状
心タンポナーデの典型的な症状でベックの三徴というものがあります!
ベックの3徴
①低血圧
②経静脈怒張
③心音微弱
過去の国家試験にも出題されていますね!
その他にも、血圧低下、呼吸困難感、チアノーゼ、意識障害などがあります。
しかし、心嚢液がゆっくり溜まっていく場合、症状がなかなか現れないことがあります。
どうしてこのような症状が起こるか、整理していきましょう!
心タンポナーデが起きると、心臓はどうなる??
心タンポナーデ=心嚢液に体液が溜まっている状態
つまり・・・
心臓の外側から強い圧力がかかっている状態
=心臓が拡張できない状態
心臓が拡張できないとどうなるの?
心臓が拡張できないとどうなるか・・・・
心臓に十分な血液が流入しなくなる。
心臓が血液を受け入れる量が少なくなるとどうなるの?
心臓の拡張不全で、心臓に入るはずだった血液はうっ滞します。
右心房に流入するはずだった血液がうっ滞すると・・・・
その上流の上大静脈、さらに上流の頚静脈が怒張して見えるようになります。
下大静脈の場合、その下の肝静脈の血液がうっ滞し、肝腫大が起こります。
また、静脈還流が悪いことで浮腫が起こります。
心拍出量が低下するとどうなるの?
血圧が低下します。
血圧低下を代償するために頻脈が起こります。
臓器血流が低下することで、さまざまな症状が現れてきます。
どんどんそれが進行していくことで、ショックが起こります。
このショックを心原性ショックと呼びます。
心タンポナーデ、奇脈に注意!!奇脈とは・・・・
奇脈(きみゃく)とは・・・
正常とは異なる脈拍のパターンで、特に呼吸と関連して現れる現象です。
【正常時】
吸息時:脈拍が弱くなる
呼息時:脈拍が強くなる
【奇脈】
吸息時:脈拍が弱くなる
呼息時:脈拍が正常か、むしろ強くなる
心タンポナーデで奇脈が起こる理由
心タンポナーデ患者の呼吸時の脈について・・・
- 吸気時
胸の中の圧力が低くなる。
これにより、胸の中にある心臓に戻ってくる血液が少し減ります。
通常、この状態でも体はうまく血液を循環させることができます。
心嚢液がたまって圧力が高くなると、心臓は血液をうまく受け入れることができません。
=吸気時に心臓が膨らみにくくなる
=脈拍が弱くなる - 呼気時
胸の中の圧力が上がる。
これにより心臓に戻る血液が増えます。
呼気時には圧力の変化が少ない。
=心臓が血液を受け入れるのがうまくいく
=脈拍が正常か強くなるの
奇脈の診察方法
奇脈は,血圧計のカフを,収縮期血圧をわずかに上回るまで膨らませた後,非常にゆっくりと(例,1心拍当たり2mmHg以下)空気を抜いていくことによって測定できる。コロトコフ音が聞こえ始めた時点(最初は呼気時のみ)とコロトコフ音が継続的に聴取される時点で血圧を記録する。それらの血圧値の差が奇脈の「量」である。
MSDマニュアル
心タンポナーデを早期発見するには、どうすればいいの?
心タンポナーデを早期に発見するためには、
・症状や身体所見(特にベックの三徴)を注意深く観察
・バイタルサインをモニタリング
症状の観察項目
- 呼吸困難
心臓が十分に血液を送り出せないため、息切れや呼吸困難を感じることが多いです。 - 頸静脈怒張
右心房や右心室の圧力が上昇し、頸静脈が膨らむ現象です。
これが明らかに観察されると、心タンポナーデを疑う兆候となります。 - 胸痛や不快感
心膜腔に圧力がかかることで、胸部に圧迫感や痛みを感じることがあります。 - 意識障害
血圧低下が進行すると、脳への血流が不十分になり、意識障害が現れることもあります。 - 冷や汗
身体は血流を重要な臓器(心臓や脳)に集中させようとするため、手足や皮膚に冷汗をかくことがあります。 - 末梢冷感
血流が皮膚に届きにくくなり、手足が冷たく感じることがあります。 - 心嚢ドレーンの排液量
急激な減少とその他の症状観察で心タンポナーデを疑う。
また急激な量の増加も、術後出血の可能性を疑う。
バイタルサインのモニタリング
- 血圧測定
心タンポナーデでは、特に収縮期血圧が急激に低下します。
血圧が異常に低い場合や、血圧が変動する場合は早期に対応が必要です。 - 脈拍
脈拍が速く、または弱くなったりすることがよくあります。
脈の強さやリズムの変化をチェックします。
奇脈に注意しましょう。 - 呼吸数と酸素飽和度
呼吸数の増加や酸素飽和度の低下も心タンポナーデの兆候です。
心タンポナーデを疑ったらどうすれば良いの?
少しでも患者がおかしいなと思ったら、まずは、ドクターコール!!
心タンポナーデは、早期発見と迅速な治療が命を守る鍵となります。
その次に、エコーの準備や急変に備えて救急カートの準備。
心エコー検査を行って、心嚢液の貯留の程度や心臓の圧迫の程度を検査し、診断をします。
心タンポナーデの治療
カテーテル検査室で、レントゲン装置を使用しながら心嚢穿刺を行う。
一刻を争う場合は、その場でエコーを見ながら穿刺することも・・・。
心嚢穿刺による心嚢液のドレナージで排液が間に合わない場合は、手術が必要になる場合もあります。
筆者の経験談
休日オンコールの日、心タンポナーデ患者の手術が決まりました。
一本の電話で急いで病院に向かい、手術室で受け入れ準備を進めていました。
心臓外科の先生は、
「心嚢ドレナージを何度かしたけど、きりがないから手術します。開胸してドレナージと止血を行います。」と手術の方針を伝えていました。
麻酔科の先生は、
「Aラインを入れて血圧をモニタリングし、その後に麻酔を導入します。血圧が下がりすぎないように慎重に進めます。」と指示を出していました。
わたしたち看護師は、指示に従って必要な準備を急いで整えました。
患者さんが手術室に入室したとき、
少し苦しそうだけど、意識はしっかりしていて、普通に話していました。
ICUで心嚢ドレナージもある程度行われており、その時点では安定していそうだなと感じました。
入室後、モニタリングを行い、Aラインを挿入し、準備が整いました。
麻酔科の先生が血圧に注意しながら麻酔薬を投与し始めました。
しかし、麻酔をかけた途端、
しゅーーーーーーーーっと血圧が急激に低下。
すぐに挿管し、昇圧を試みましたが、血圧が全く上がりませんでした。
心臓が圧迫されており、全然血圧が回復しませんでした。
いよいよ血圧もレートもやばい・・・・・
急いで心膜切開しないと!!!!
胸骨圧迫を開始し、急いで心膜切開を行う準備をしました。
消毒を行い、ガウンを着てメスを渡し、急いで心膜切開へ・・・
血液を吸引すると、次第に血圧が上昇していきました。
患者さんは徐々に安定し、手術が進行しました。
手術室での看護師経験はそこそこありますが、この時は本当に怖い思いをしました。
この経験を通じて、今後どんな状態の患者でも、心タンポナーデ患者の場合は、麻酔導入前に必ず消毒してドレープをかけ、手術をすぐに開始できる準備を整えてから麻酔を導入することに決まりました。
まとめ
心タンポナーデは、急速に進行する可能性がある生命を脅かす疾患であり、早期の診断と迅速な治療が求められます。
症状の早期発見や適切な管理が命を守るために非常に重要です。
心タンポナーデで必ず覚えておきたい症状は
ベックの3徴
①低血圧
②経静脈怒張
③心音微弱
これらがどのようなメカニズムで起きているか、理解しておきましょう。
国家試験の過去問にチャレンジしよう!!
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