敗血症性ショックは、感染症が引き起こす生命を脅かす重篤な状態です。
早期に適切な治療が行われなければ、多臓器不全や死亡に至るリスクが非常に高いことが知られています。
そのため、早期発見と適切な治療が生死を分ける重要な要素となります。
よって、私たち看護師が敗血性ショックについての知識を身に着けておくことが、患者さんを守ることにつながります。
この記事では敗血症性ショックの
・メカニズム
・診断基準
・治療法(看護のポイント)
・予後
についてわかりやすく解説していきます。
敗血症性ショックとは何か
まず敗血症とは
敗血症の定義
”感染症に対する生体反応が調節不能な状態となり,
重篤な臓器障害が引き起こされる状態”
2024年敗血症治療ガイドラインより引用
敗血症の診断基準
①感染症もしくは感染症の疑いがある
②SOFAスコアの合計2点以上の急上昇
以上2つを満たす場合に診断する。
SOFAスコアとは
SOFAスコア(Sequential Organ Failure Assessment Score)とは
臓器機能不全の程度を評価するためのスコアリングシステムです。
6つの臓器系(呼吸、循環、肝臓、血液、腎臓、神経)に基づいてスコアが付けられ、合計スコアで臓器障害の重症度を評価します。
【6つの評価項目】
神経: グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)
呼吸: PaO₂(動脈血ガス中の酸素分圧)とFiO₂(吸入酸素濃度)
循環: 血圧と昇圧薬の使用状況
肝臓: 血清ビリルビン濃度
血液: 血小板数
腎臓: 血清クレアチニン濃度または尿量
SOFAスコアの合計は0~24までの範囲
スコアが高いほど臓器不全が重篤であることを示します。
このスコアは、敗血症や重篤な疾患の治療経過を評価するために役立ちます。
GCSについては以下の記事を読んでください
併せて、ノルアドレナリンなどのカテコラミンについての記事も読んでみてください。
敗血症性ショックとは
敗血症性ショックは,
”敗血症の診断基準に加え,平均動脈圧65 mmHg以上を保つために
輸液療法に加えて血管収縮薬を必要とし,かつ血中乳酸値2 mmol/L (18 mg/dL)を超える場合に診断する。”
2024年敗血症治療ガイドラインより引用
簡単に言うと、敗血症の人が循環不全を起こしている状態ということです。
敗血症性ショックのメカニズム
敗血症性ショックの原因
1. 細菌感染
敗血症性ショックの約60〜80%は細菌による感染が原因です。
細菌が血液中に侵入して敗血症を引き起こし、その後、ショック状態に至ります。
- グラム陽性菌
- 黄色ブドウ球菌
- 肺炎球菌
肺炎や髄膜炎などの感染から広がる - A群β溶血性連鎖球菌
群発感染や壊死性筋膜炎に関連し、重篤な敗血症性ショックを引き起こすことがあります。
- グラム陰性菌
- 大腸菌(Escherichia coli)
尿路感染や腹膜炎、消化管の穿孔などが原因 - 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
呼吸器や尿路の感染症 - クレブシエラ菌(Klebsiella pneumoniae)
肺炎、尿路感染、腹腔内感染
- 大腸菌(Escherichia coli)
- 腸内細菌
2. ウイルス感染
- インフルエンザウイルス
- 新型コロナウイルス
- ヘルペスウイルス
3. 真菌感染
- カンジダ
- アスペルギルス
4. その他の原因
感染症以外にも、敗血症性ショックを引き起こす要因があります。
- 免疫不全
免疫系が正常に機能していない場合、感染が進行しやすく、敗血症性ショックを引き起こしやすいです。例えば、HIV感染や癌治療による免疫抑制が原因となることがあります。 - 侵襲的処置や手術後の感染
手術中の感染、人工呼吸器やカテーテルによる感染なども敗血症性ショックの原因となります。 - 外傷や熱傷
重度の外傷や火傷も、細菌感染を引き起こし、敗血症性ショックに繋がることがあります。 - 腹部感染
腸管の穿孔(例:虫垂炎、憩室炎など)や腹膜炎などの腹部感染が敗血症性ショックを引き起こすことがあります。
5. リスク因子
- 高齢者や新生児
年齢が高いほど免疫機能が低下し、敗血症性ショックにかかりやすくなります。 - 慢性疾患を持つ人
糖尿病、心不全、肝疾患、腎不全などがあると、敗血症性ショックを引き起こしやすくなります。 - 免疫抑制治療を受けている人
ステロイドや化学療法を受けている患者は、免疫力が低下し、感染症のリスクが増します。
敗血症性ショックの症状
敗血症の症状
・低血圧
・頻脈
・頻呼吸
・発熱または低体温
プラス感染源に一致した症状
敗血症性ショックの症状
ショックの兆候5P
ショックの症状については以下の記事を参照してください
【敗血症性ショックは2段階に分かれます。】
1段階目:ウォームショック
血管が拡張し、血圧は低いが四肢は温かい状態
2段階目:コールドショック
内皮細胞が障害されて、血液が漏れ出していく
血圧がさらに低下、末梢の血管が収縮し、手足が冷たくなっていく。
=臓器障害が進んでいる証拠
臓器の障害により
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
急性腎障害(AKI)
などがおこり、敗血症改善後も後遺症が残りやすくなります。
敗血症患者の看護のポイント
敗血症患者の看護は、早期の発見と迅速な対応が生命を救う鍵となります。
敗血症は急速に進行し、ショックや多臓器不全を引き起こす可能性があるため、看護師は病態をよく理解し、適切な観察、評価、介入を行うことが求められます。
1. 早期発見と兆候のモニタリング
兆候を常にモニタリングし、速やかに報告・対応する必要があります。
- 体温の異常
(発熱または低体温) - 呼吸状態の異常
(頻呼吸や呼吸困難) - 心拍数の変動
(頻脈、徐脈) - 血圧の低下
(低血圧やショック) - 意識レベルの変化
(混乱、錯乱、昏睡) - 尿量の減少
(無尿または乏尿) - 皮膚の冷感、蒼白、チアノーゼ
(末梢血流の低下) - 末梢循環の状態
(手足が温かいまたは冷たい)
2. 酸素化と呼吸管理
- 酸素投与
酸素濃度を調整し、酸素飽和度を維持する(SpO2 90%以上を目標)。 - 呼吸補助
呼吸困難がある場合、呼吸補助装置(非侵襲的換気や人工呼吸器)を使用することがあります。 - 体位の管理
頭部を少し上げるなどの体位管理により、呼吸がしやすくなる場合があります。
3. 循環のサポート
- 輸液管理
絶対的または相対的な血液量の不足が原因となることが多いため、早期に輸液を開始し、血圧の安定化を図ります。生理食塩水やリンゲル液など、適切な輸液を選択します。 - 昇圧薬の投与
血圧が十分に改善しない場合、昇圧薬(ノルアドレナリンなど)を使用することがあります。適切な薬剤投与をサポートし、モニタリングを行います。 - 尿量のモニタリング
尿量の減少(乏尿や無尿)があれば、腎機能が低下している可能性があるため、速やかに報告し、対処を行います。
4. 感染源の特定と治療
- 血液培養の実施
感染源を特定するために、血液培養や他の必要な培養(尿、喀痰、創傷など)を実施し、医師に報告します。 - 抗菌薬の早期投与
感染源に応じた広範囲の抗菌薬を早期に投与することが重要です。抗菌薬の選定は医師の指示に従い、変更があればその都度確認します。 - 治療経過の観察
感染症の改善状況や治療効果を評価し、必要に応じて治療方針を修正するため、看護師は日々の観察を行います。
5. 栄養管理
敗血症により、エネルギー消費が増加し、栄養状態が悪化することがあるため、栄養管理が重要です。
- 早期の栄養補給
可能であれば、経口または経管栄養を開始し、栄養素を補給します。重篤な場合は、静脈栄養(TPN)が必要になることもあります。 - 水分・電解質の管理
輸液や栄養に加えて、必要な電解質や水分バランスの管理を行います。特に低ナトリウムや低カリウムに注意します。
6. 痛みと不安の管理
敗血症患者は身体的および心理的な負担が大きく、痛みや不安を抱えていることが多いです。
- 痛みの評価と管理
体調に伴う痛みや不快感がある場合は、適切な鎮痛剤を使用し、患者の痛みを管理します。痛みの評価を定期的に行い、改善が見られない場合は適切な方法を見直します。 - 不安や恐怖への対応
診断や治療過程に不安を感じる患者に対して、心理的サポートを提供します。情報提供を行い、患者や家族の不安を軽減できるように配慮します。
7. 多臓器不全の予防と対応
敗血症性ショックが進行すると、多臓器不全(肝、腎、心臓など)が発生するリスクが高まります。これに対応するため、以下の点に注意します。
- 腎機能の管理
乏尿や無尿をモニタリングし、必要に応じて腎機能のサポートを行います(透析など)。 - 肝機能のモニタリング
肝機能障害が進行する可能性があるため、血液検査でAST、ALT、ビリルビンなどをチェックし、異常があれば報告します。 - 心機能の管理
心不全や心筋梗塞などが敗血症に伴う合併症として現れることがあるため、心機能の状態を確認し、心拍数や血圧を安定させる管理が求められます。
8. 家族や患者への情報提供とサポート
敗血症患者は重篤な状態にあるため、患者本人や家族への情報提供と精神的サポートが重要です。
- 治療方針の説明
敗血症の病態、治療方針、予後について患者とその家族に対して分かりやすく説明し、質問に答えることが重要です。 - 心理的サポート
患者や家族の不安や恐怖に配慮し、必要であれば心理的な支援を行います。
まとめ
敗血症性ショックへ至る前に、早期に敗血症治療を行う必要があります。
早期発見するには、日々の観察が重要になります。
敗血症の診断基準は
①感染症もしくは感染症の疑いがある
②SOFAスコアの合計2点以上の急上昇
以上2つを満たす場合
敗血症が疑われる原因段階で、治療開始することで予後が大きく変わります。
知識をもって日々の看護を行うことで、患者さんを守ることにつながります。
日々の仕事で疲れていると思いますが、少しずつコツコツと一緒に知識を増やしていきましょう!
引用文献
2024年敗血症治療ガイドライン
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