5分でわかる!術中バイタル管理【心電図編】まずはこれだけ。危険な波形!

5分でわかるシリーズ!

術中モニターで心電図(ECG)を見るのは、麻酔科医だけではありません。看護師も”心電図の変化にいち早く気づく”ことが、患者の命を守る第一歩。この記事では、新人看護師さん向けに「心電図のポイント」だけをギュッとまとめて解説します。

まずはこれだけ!正常波形・洞調律を覚えよう

心電図で一番大事なのは「正常がわかること」
正常がわかれば、「いつもと違う!」に気づけます。

洞調律(SR:サイナスリズム)とは・・・

心臓の中にある「洞結節(どうけっせつ)」というペースメーカーが、正常にリズムを作っている状態のことです。

※英語では「Sinus(洞結節) Rhythm(リズム)」
洞調律を「SR」と記載する人もいますね。

正常波形(洞調律)の特徴

項目意味波形の特徴ポイント
P波心房の興奮
(心房が収縮する合図)
小さくてなだらかな山型・P波が上向きであること
・1回の収縮につき必ず1つのP波があること
・P波の形が毎回ほぼ同じであること
PR間隔洞結節から心室までの
電気伝導時間
P波の始まり
〜QRS波の始まりまで
の時間
・正常は0.12〜0.20秒(3〜5小マス)
・短すぎ/長すぎは伝導異常の可能性
QRS波心室の興奮
(心室の収縮)
ピークのある尖った波
(細くて鋭い)
・幅が0.06〜0.10秒(2.5小マス以下)
・幅が広いと心室性の異常の可能性あり
T波心室の回復
(再分極)
ゆるやかで丸みのある山型・T波が陰性になっていないか
尖っていないか
(高カリウムで変化)
リズム拍動の間隔
(規則正しいか)
P-P間隔 または
R-R間隔が等しい
・波の間隔がほぼ等間隔であること
・乱れがある場合は不整脈の可能性
心拍数1分あたりの拍動数60〜100回/分・60未満=徐脈
・100以上=頻脈
・患者の状態と照らして判断

正常波形を毎日見るクセをつけて、異常に気づける目を育てよう!

ここだけは見ておきたい!新人さん向けチェックポイント

  • P波 → QRS → T波 の順番が崩れていないか?
  • 波形が毎回同じパターンで出ているか?
  • P波とQRSが1:1で対応しているか?
  • リズムが一定か?
  • 心拍数が適正か?(麻酔中でも注意)

▼新人看護師さんへオススメの一冊です!

術中で心電図変化が起きやすいタイミングと注意点

① 麻酔導入直後

  • 出やすい波形
    洞性徐脈
    一時的な頻脈
    QT延長
  • ポイント
    導入薬(プロポフォール等)による自律神経抑制が原因。
    持続する徐脈や極端なQT延長は要注意!

② 体位変換(砕石位・側臥位・頭低位)

  • 出やすい波形
    徐脈
    波形の低電位化
  • ポイント
    迷走神経反射電極ズレによる変化が多い。
    特に砕石位では下肢の血流が変化しやすく注意。

③ 手術操作による刺激

  • 出やすい波形
    頻脈
    期外収縮(PVC)
  • ポイント
    子宮・直腸などの牽引で反射的に波形変化が出やすい。
    腹腔鏡手術は特に観察を。

④ 出血・脱水

  • 出やすい波形
    洞性頻脈
    ST下降
    QRS波低下
  • ポイント
    出血量・尿量・SpO₂とセットで観察。
    循環不全のサインかも。

⑤ 電解質異常(術中の輸液や利尿薬の影響)

  • 出やすい波形
    T波の尖鋭化や陰性化
    QT延長
  • ポイント
    高K⁺はVFリスクもあり
    術前血液データもあわせてチェック。

⑥ 薬剤投与後(昇圧剤・抗不整脈薬など)

  • 出やすい波形
    QT延長不整脈(PVCなど)
  • ポイント
    心毒性のある薬(アミオダロンなど)は特に注意!
    投与直後の波形変化を見逃さない。

危険な波形と移行ルート

波形観察される状態危険な移行先ポイント
単発PVC
(心室性期外収縮)
たまにQRSが異常な形で出現単発PVC

連発PVC
✔ 1分間に6回以上出現(6連発以上=要注意

✔ 2連発以上は連発PVCと呼ぶ
連発PVC
(2連発以上)
異常なQRSが連続で出る連発PVC

心室頻拍(VT)
✔ 3連発以上なら
「非持続性VT」

✔ すぐ報告+12誘導心電図確認も◎
QT延長
(>0.44秒)
Q-T間隔が長くなるQT延長

多形性心室頻拍
(TdP)

VF
✔ 電解質異常・薬剤性(アミオダロン、抗精神病薬)
T波の形や間隔にも注目!
ST下降ST部分が基線より下にST下降

ST上昇
✔ 循環不全が原因の可能性
✔ 同時に血圧やSpO₂もチェック!
ST上昇ST部分が上がるST上昇

心室細動(VF)
心停止
✔ 心筋梗塞の可能性
✔ 胸部症状が言えない麻酔中だからこそ要注意
完全房室ブロックPとQRSがバラバラ完全房室ブロック

徐脈

心停止
✔ 洞結節からの信号が心室に届かない
✔ QRS幅が広く、30台までHR低下することも
心室頻拍(VT)幅広QRSが連続、規則的心室頻拍(VT)

心室細動(VF)
✔ 持続すると意識消失・心停止へ
✔ 3拍以上=VTとみなす。即対応レベル!
心室細動(VF)波形がバラバラで無秩序心室細動(VF)

心停止
即除細動が必要
✔ 1分の遅れが致命的になる

心電図変化を見つけたらどうする?

「おかしいかも」と思ったら、まずは以下をチェック!

  1. リード(誘導)が外れてない?
    → 接触不良を除外
  2. 他のバイタルは?
    → 血圧・SpO₂・体温・尿量など
  3. 出血していない?
    → ガーゼ量・ドレーン確認
  4. 手術操作とのタイミングは?
    → 器械出しさんや術者に確認
  5. 薬剤や麻酔の影響は?
    → 直前に投与があったか?

「いつから・どの波形が・どう変わったか」を整理して報告!

まとめ:まずは“正常”を知り、 “変化”に気づけることから

術中モニターは、「異常を判断する力」よりも、
まずは「あれ?いつもと違う」に気づける感覚が大事。

新人のうちは、

  • 毎日“洞調律”を見て、正常をインプット
  • 変化に気づいたら、落ち着いて「観察→報告」

そこから、一歩一歩、心電図の理解を深めていきましょう

▼まずはこの一冊で勉強!

おまけ:術中モニターの「誘導」ってなに?

誘導(ゆうどう)とは?

心電図(ECG)における「誘導」とは、
心臓の電気信号を「どこからどの方向に見ているか」を表すもの。

同じ心臓の動きでも、「見る方向」が違うと波形の見え方も変わります。


手術室でよく使う「誘導」の種類と心電図の貼り方

病棟や救急では「12誘導心電図」が使われますが、
術中モニターでは主に以下の2つです

私の5点誘導の貼り方の覚え方は「きしみ(黄・白・緑)」
この順番だけ覚えて、赤の下に黒を貼ってるかな(笑)

【基本】3点誘導

▶ 表示される誘導:基本Ⅱ誘導

3点誘導では、電極を3つ貼り、基本的に「Ⅱ誘導」が表示されるよう設定されています。

  • 電気の流れが右上(右腕)から左下(左脚)
    心臓の電気活動の方向と一致
  • P波・QRS波・T波がもっともはっきり見える
    「洞調律の確認」に最適

モニター設定によって、Ⅰ誘導~Ⅲ誘導へ切り替えることも可能
ただし、術中は「Ⅱ誘導」が基本です。

【詳細に見る】5点誘導

▶ 表示できる誘導:Ⅰ~Ⅲ誘導、aVR・aVL・aVF、V(胸部誘導)

  • 5点誘導では、より多くの方向から心臓を“立体的”に見ることができます。
  • 特にV(胸部誘導)では、心臓の前面(前壁)を詳しくチェックできます。

心臓手術や虚血リスクのある手術では
5誘導を使用する施設が多いです。

誘導見ている方向特徴・ポイント
Ⅰ誘導左→右(横向き)側壁(左心室の外側)を見ている。ST変化があれば虚血のサインかも。
Ⅱ誘導右上→左下(斜め)洞調律の確認にベスト。P波・QRS・T波がそろってキレイ。
Ⅲ誘導上→下に近い方向下壁の虚血を見る時に使われる。
ST上昇で下壁梗塞の可能性。
aVR右肩方向通常は“逆向き”の波形。
異常波形なら大きな病態の可能性。
aVL左肩方向側壁虚血を見るときに有効。
Ⅰ誘導とセットで使われることも。
aVF足側(下)下壁虚血を評価する際によく使う。Ⅲ誘導と合わせて判断。
V(胸部誘導)心臓の前面・左右ST変化に特に敏感。
ST上昇・下降の評価に重要。

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