術中モニターで心電図(ECG)を見るのは、麻酔科医だけではありません。看護師も”心電図の変化にいち早く気づく”ことが、患者の命を守る第一歩。この記事では、新人看護師さん向けに「心電図のポイント」だけをギュッとまとめて解説します。
まずはこれだけ!正常波形・洞調律を覚えよう

心電図で一番大事なのは「正常がわかること」。
正常がわかれば、「いつもと違う!」に気づけます。
洞調律(SR:サイナスリズム)とは・・・
心臓の中にある「洞結節(どうけっせつ)」というペースメーカーが、正常にリズムを作っている状態のことです。
※英語では「Sinus(洞結節) Rhythm(リズム)」
洞調律を「SR」と記載する人もいますね。
正常波形(洞調律)の特徴
項目 | 意味 | 波形の特徴 | ポイント |
---|---|---|---|
P波 | 心房の興奮 (心房が収縮する合図) | 小さくてなだらかな山型 | ・P波が上向きであること ・1回の収縮につき必ず1つのP波があること ・P波の形が毎回ほぼ同じであること |
PR間隔 | 洞結節から心室までの 電気伝導時間 | P波の始まり 〜QRS波の始まりまで の時間 | ・正常は0.12〜0.20秒(3〜5小マス) ・短すぎ/長すぎは伝導異常の可能性 |
QRS波 | 心室の興奮 (心室の収縮) | ピークのある尖った波 (細くて鋭い) | ・幅が0.06〜0.10秒(2.5小マス以下) ・幅が広いと心室性の異常の可能性あり |
T波 | 心室の回復 (再分極) | ゆるやかで丸みのある山型 | ・T波が陰性になっていないか ・尖っていないか (高カリウムで変化) |
リズム | 拍動の間隔 (規則正しいか) | P-P間隔 または R-R間隔が等しい | ・波の間隔がほぼ等間隔であること ・乱れがある場合は不整脈の可能性 |
心拍数 | 1分あたりの拍動数 | 60〜100回/分 | ・60未満=徐脈 ・100以上=頻脈 ・患者の状態と照らして判断 |

正常波形を毎日見るクセをつけて、異常に気づける目を育てよう!
ここだけは見ておきたい!新人さん向けチェックポイント
▼新人看護師さんへオススメの一冊です!
術中で心電図変化が起きやすいタイミングと注意点
① 麻酔導入直後
② 体位変換(砕石位・側臥位・頭低位)
③ 手術操作による刺激
④ 出血・脱水
⑤ 電解質異常(術中の輸液や利尿薬の影響)
⑥ 薬剤投与後(昇圧剤・抗不整脈薬など)
危険な波形と移行ルート
波形 | 観察される状態 | 危険な移行先 | ポイント |
---|---|---|---|
単発PVC (心室性期外収縮) | たまにQRSが異常な形で出現 | 単発PVC ↓ 連発PVC | ✔ 1分間に6回以上出現(6連発以上=要注意) ✔ 2連発以上は連発PVCと呼ぶ |
連発PVC (2連発以上) | 異常なQRSが連続で出る | 連発PVC ↓ 心室頻拍(VT) | ✔ 3連発以上なら 「非持続性VT」 ✔ すぐ報告+12誘導心電図確認も◎ |
QT延長 (>0.44秒) | Q-T間隔が長くなる | QT延長 ↓ 多形性心室頻拍 (TdP) ↓ VF | ✔ 電解質異常・薬剤性(アミオダロン、抗精神病薬) ✔ T波の形や間隔にも注目! |
ST下降 | ST部分が基線より下に | ST下降 ↓ ST上昇 | ✔ 循環不全が原因の可能性 ✔ 同時に血圧やSpO₂もチェック! |
ST上昇 | ST部分が上がる | ST上昇 ↓ 心室細動(VF) 心停止 | ✔ 心筋梗塞の可能性 ✔ 胸部症状が言えない麻酔中だからこそ要注意 |
完全房室ブロック | PとQRSがバラバラ | 完全房室ブロック ↓ 徐脈 ↓ 心停止 | ✔ 洞結節からの信号が心室に届かない ✔ QRS幅が広く、30台までHR低下することも |
心室頻拍(VT) | 幅広QRSが連続、規則的 | 心室頻拍(VT) ↓ 心室細動(VF) | ✔ 持続すると意識消失・心停止へ ✔ 3拍以上=VTとみなす。即対応レベル! |
心室細動(VF) | 波形がバラバラで無秩序 | 心室細動(VF) ↓ 心停止 | ✔ 即除細動が必要 ✔ 1分の遅れが致命的になる |
心電図変化を見つけたらどうする?
「おかしいかも」と思ったら、まずは以下をチェック!

「いつから・どの波形が・どう変わったか」を整理して報告!
まとめ:まずは“正常”を知り、 “変化”に気づけることから
術中モニターは、「異常を判断する力」よりも、
まずは「あれ?いつもと違う」に気づける感覚が大事。
新人のうちは、
そこから、一歩一歩、心電図の理解を深めていきましょう!
▼まずはこの一冊で勉強!
おまけ:術中モニターの「誘導」ってなに?
誘導(ゆうどう)とは?
心電図(ECG)における「誘導」とは、
心臓の電気信号を「どこからどの方向に見ているか」を表すもの。

同じ心臓の動きでも、「見る方向」が違うと波形の見え方も変わります。
手術室でよく使う「誘導」の種類と心電図の貼り方
病棟や救急では「12誘導心電図」が使われますが、
術中モニターでは主に以下の2つです。


私の5点誘導の貼り方の覚え方は「きしみ(黄・白・緑)」
この順番だけ覚えて、赤の下に黒を貼ってるかな(笑)
【基本】3点誘導
▶ 表示される誘導:基本Ⅱ誘導
3点誘導では、電極を3つ貼り、基本的に「Ⅱ誘導」が表示されるよう設定されています。

モニター設定によって、Ⅰ誘導~Ⅲ誘導へ切り替えることも可能。
ただし、術中は「Ⅱ誘導」が基本です。
【詳細に見る】5点誘導
▶ 表示できる誘導:Ⅰ~Ⅲ誘導、aVR・aVL・aVF、V(胸部誘導)

心臓手術や虚血リスクのある手術では
5誘導を使用する施設が多いです。
誘導 | 見ている方向 | 特徴・ポイント |
---|---|---|
Ⅰ誘導 | 左→右(横向き) | 側壁(左心室の外側)を見ている。ST変化があれば虚血のサインかも。 |
Ⅱ誘導 | 右上→左下(斜め) | 洞調律の確認にベスト。P波・QRS・T波がそろってキレイ。 |
Ⅲ誘導 | 上→下に近い方向 | 下壁の虚血を見る時に使われる。 ST上昇で下壁梗塞の可能性。 |
aVR | 右肩方向 | 通常は“逆向き”の波形。 異常波形なら大きな病態の可能性。 |
aVL | 左肩方向 | 側壁虚血を見るときに有効。 Ⅰ誘導とセットで使われることも。 |
aVF | 足側(下) | 下壁虚血を評価する際によく使う。Ⅲ誘導と合わせて判断。 |
V(胸部誘導) | 心臓の前面・左右 | ST変化に特に敏感。 ST上昇・下降の評価に重要。 |
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