全身麻酔の合併症として有名な「悪性高熱症」。
看護師国家試験でも頻出で、勉強中に名前を聞いた方も多いのではないでしょうか。
しかし実際の臨床現場では、遭遇することが極めて稀。
それでも、いざ発症すると命に関わる緊急事態。
看護師として知っておくべき観察ポイントやダントロレンの投与方法を、わかりやすく整理しました。
本記事の内容は、「悪性高熱症管理ガイドライン2025(日本麻酔科学会)」を参考にしています。
※本記事は、看護師としての知識・経験および公的ガイドラインをもとに執筆していますが、すべての医療現場や症例に当てはまるものではありません。最新の情報や治療方針については、必ず所属施設のマニュアルや医師の指示に従ってください。
また、本記事は医療行為を推奨・指導するものではなく、情報提供を目的としています。医療判断は各自の責任において行ってください。
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悪性高熱症とは?(Malignant Hyperthermia, MH)
悪性高熱症とは・・・
揮発性吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬の使用をきっかけに、筋肉が異常に興奮して熱を大量に産生する重篤な合併症です。
誘因となる薬剤
揮発性吸入麻酔薬 | ・イソフルラン ・セボフルラン(比較的安全) ・デスフルラン(比較的安全) |
脱分極性筋弛緩薬 | ・スキサメトニウム |

- 非脱分極性筋弛緩薬のロクロニウム
- 麻薬
- 静脈麻酔薬
これらは、安全に使用可能です!
発症速度と致死率
- 致死率:約80%
※ダントロレンの早期投与で10%以下に低下 - 発症までのスピードが早いため、迅速な対応が鍵
悪性高熱症の症状と観察項目

症状:発症するとどうなる?
簡単に言うと・・・
全身の筋肉が異常に興奮して熱を大量に産生し、短時間で多臓器不全や心停止に至ります。
看護師が注目すべき観察項目
「赤字で示した症状があれば、ダントロレン投与の適応!
「悪性高熱症による緊急事態」を宣言し治療開始へ。
悪性高熱症の治療に使うダントロレンについて
ダントロレンとは?
- 商品名:ダントリウム静注用20mg
- 筋小胞体からのCa²⁺放出を抑え、筋収縮・熱産生を止める薬
ダントロレンの希釈方法
1バイアルに注射用水60mLを加えて振り、完全に澄明になったことを確認して使用。
ダントロレン投与のポイント
原則として単独ルートで投与。
やむを得ず側管から投与する場合は、投与前後に蒸留水でルート内をフラッシュする。

蒸留水でのフラッシュは、溶血リスクあり!
少量でゆっくり行う!
ダントロレン投与速度と量
- 初回投与:1 mg/kg(可能なら2 mg/kg)を10分以内に静注
- 効果を10分ごとに評価し、症状が続いていれば初回と同量を追加投与
- 追加投与は症状に応じて行い、最大投与量は7 mg/kgまで

60kgの人には初回で6~12バイアル必要・・・
薬剤を準備するのも大変!
悪性高熱症(MH)発症時の手術室看護師の役割
治療手順:悪性高熱症管理ガイドライン2025
悪性高熱症管理ガイドライン2025
発症時の手術室看護師の行動
優先度 | 看護師の役割(やること) | ポイント・備考 |
---|---|---|
①緊急対応 | 異常を察知したら即報告 | 体温・ETCO₂・筋強直に注意 すぐに麻酔科医・執刀医に報告。 |
②人員確保 | 緊急事態を宣言しスタッフに声かけ | 手術チーム全体の協力が必要。 近くのスタッフへ声かけ。 |
③原因薬中止 | 揮発性麻酔薬 スキサメトニウム中止を補助 静脈麻酔への切り替え補助 | 麻酔器の気化器OFF 切替支援 (命令があれば回路交換準備) |
④ダントロレン準備 | ダントロレンの溶解・確保 | 1バイアル20mgに注射用水60mL。振って透明に。 |
⑤投与ルート管理 | 太い末梢ルートの確保を補助 | 専用ルートへダントロレン投与。既存ルートでの投与状況を確認・補助。 |
⑥呼吸管理補助 | 過換気(分時換気量2倍) 高流量酸素設定のサポート | 麻酔器設定の補助、回路の確認。 |
⑦冷却処置支援 | 冷却生食準備 体表冷却を実施 | 冷却生食の点滴静注。 (最大50〜60mL/kg) 保冷剤・送風機などで外部冷却。 |
⑧検体検査準備 | 血液検査・尿検体の準備と搬送 | 血ガス・電解質・CK・ミオグロビン・DICなど指示に応じて採取。 |
⑨記録・報告 | バイタル・ETCO₂・投与量・冷却処置の記録 | 投与時間、量、体温変化、尿量などを逐次記録し、医師に報告。 |
⑩再燃監視 | 症状再燃に注意して経過観察を継続 | 24時間は再燃リスクあり。 特に体温・筋緊張・ETCO₂の再上昇に注意。 |
普段からできる悪性高熱症対策|手術室看護師の備え
- ダントロレンの保管場所と期限の確認
- 発症時のシミュレーション訓練
- 家族歴・手術歴の確認(優性遺伝なので要注意)
- 知識のアップデート(ガイドラインや症例を定期的に確認)
悪性高熱症のリスクがある患者への麻酔計画
- 安全な麻酔法の選択と準備が最優先
- カルシウム拮抗薬との併用には要注意
- ダントロレンと蒸留水を事前に必要量用意
- 麻酔器の徹底洗浄と高流量ガスでの除去が重要
- 術中の体温・ETCO₂のモニタリングを必ず行う
まとめ
悪性高熱症は、発症頻度こそ低いものの、発症したら一分一秒を争う緊急事態です。
看護師として、次の3つを心がけておけば、万が一のときも落ち着いて対応できます。
「知っていて、動けること」が、患者さんの命を守る力になります。
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