血圧について詳しく見ていきましょう!!
血圧とは?【基礎、正常値】
収縮期血圧(SBP:Systolic Blood Pressure)
拡張期血圧(DBP:Diastolic Blood Pressure)
重要:平均血圧(MAP:Mean Arterial Pressure)
収縮と拡張の平均的な圧力=臓器に血液を送り届ける力の目安
MAPは血圧モニタリングで最も重視される値のひとつです。

MAPは臓器への血液供給の指標であり、手術中の血圧管理で最も重視される値の一つです。
MAPが60mmHgを下回ると臓器灌流不全のリスクが高まるため、特に注意が必要です。
余談:なぜ脳や心臓の血流は、拡張期血圧が重要なの?

心臓(冠動脈)の場合
心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を届けているのが冠動脈です。
この冠動脈への血流は拡張期に増えるのが特徴です。
▶ 特に拡張期血圧が重要な理由
心筋は収縮期に血管が圧迫されるため血流が減り、拡張期に冠動脈血流が増加します。
拡張期に血流が増加する理由 | 内容 |
---|---|
① 筋肉の弛緩 | 心筋が緩むことで、冠動脈が圧迫されなくなる |
② 大動脈弁の閉鎖 | 弁が閉じ、冠動脈の入り口に血液が流れ込める |
💡拡張期血圧が低すぎると心筋に血流が届かず、心筋虚血の原因になることもあります。
脳の場合
脳は常に大量の酸素と栄養を必要とする臓器です。
生命維持にも重要な臓器で、脳血流は自己調節機能によって一定に保たれています。
▶ 特に拡張期血圧が重要な理由
💡高齢者では、拡張期血圧が下がりすぎることで脳貧血を起こしやすくなるため、注意が必要です。
臓器血流と血圧の関係
臓器に十分な酸素と栄養を届けるためには、「臓器灌流(かんりゅう)」が保たれていることが重要です。
これが不足すると、臓器は正常に機能できなくなり、やがて不可逆的な障害につながることもあります。
覚えておきたい灌流の閾値
臓器 | 最低限必要なMAPの目安 | 特徴・注意点 |
---|---|---|
脳 | 60~70 mmHg 以上 | 脳には自己調節能(オートレギュレーション)がある MAP60mmHgを下回ると灌流が保てなくなるリスクがあります。 ※重症患者や高齢者ではこの機能が低下していることもあるため注意が必要。 |
心臓 | 60 mmHg 以上 | 心筋(心臓の筋肉)への血流が低下すると、酸素不足から心筋虚血を起こします。 これは胸痛や不整脈、心停止につながる可能性もあるため、MAPはしっかり維持する必要があります。 |
腎臓 | 65 mmHg 以上 | 腎臓は灌流低下に非常に敏感で、血流が減るとすぐに尿量が減少します。 尿量<0.5ml/kg/hrは警戒。 長期間の低灌流は急性腎障害(AKI)の原因になる。 尿量の変化は、腎血流の指標として重要です。 |
肝臓 | 60 mmHg 以上 | 肝臓は比較的灌流低下に耐える力があります。 60mmHgを下回ると、肝酵素の上昇や代謝機能の低下といった問題が出る可能性があります。特に出血性ショックや敗血症では注意が必要です。 |
手術中の血圧低下の主な原因とアセスメント・対応

原因①循環血液量の減少
主な原因例
アセスメント
項目 | 判断の目安 | 補足 |
---|---|---|
出血量 | 500mL以上で注意、 1000mL以上で輸血検討 | 術中出血量 ドレーン排液なども確認 |
尿量 | 0.5mL/kg/時未満 (例:50kg → 25mL/時以下) | 継続して減少しているか 経時的に観察 |
CVP (中心静脈圧) | 4〜10cmH₂Oが正常 4cmH₂O以下で血液量減少を示唆 | CV挿入時のみ確認可能 |
末梢循環 | 四肢冷感 皮膚の蒼白 末梢冷却 | 末梢循環不全を示唆 |
対応
原因② 体液シフト(血管外漏出)
主な原因例
アセスメント
項目 | 判断の目安 | 補足 |
---|---|---|
血圧 | MAP<65mmHg | 出血がないのに 血圧低下が続く場合は要注意 |
尿量 | 0.5mL/kg/時未満 | 体液が血管外に漏れ、 腎血流が減少している可能性 |
CVP (中心静脈圧) | 4cmH₂O以下 | 実質的な循環血液量が減っている証拠 |
末梢循環 | 四肢冷感 皮膚色の変化 末梢冷却 | 出血時と似た症状だが、 出血量が少ない点に注目 |
対応:
原因③ 血管の拡張
主な原因例
アセスメント
項目 | 判断の目安 | 補足 |
---|---|---|
血圧変動 | 麻酔導入後に収縮期血圧が30mmHg以上低下 | 特にプロポフォール・セボフルラン導入時に起こりやすい |
SpO₂ | 90%未満 | アナフィラキシーで気道狭窄がある場合に低下 |
皮膚症状 | 紅斑 蕁麻疹 発赤 | アレルギー性反応の指標 |
末梢温 | 末梢が温かい場合、血管拡張を示唆 | 血流が過剰に末梢へ流れている状態 |
対応
原因④: 心拍出量の低下
主な原因例
アセスメント
項目 | 判断の目安 | 補足 |
---|---|---|
心拍数 | 徐脈(50回/分以下) 頻脈(100回/分以上) | 麻酔薬 迷走神経反射 不整脈などに注意 |
心電図 | PVC、VTなどの不整脈を確認 | 心室性不整脈 虚血波形にも注意 |
末梢循環 | 末梢冷感 脈拍触知困難 意識レベルの変化 | 心拍出量が低く 脳・末梢血流が不足している |
意識レベル (全身麻酔以外) | 眠気 混乱 反応遅延 | 脳血流不足のサイン |
対応
原因⑤血管抵抗の変化
主な原因例
アセスメント
項目 | 判断の目安 | 補足 |
---|---|---|
体温 | 38.5℃以上(高熱) 35℃以下(低体温) | 体温の上昇は 敗血症性ショック 重篤な感染時に出現 |
炎症マーカー | CRP>10mg/dL 白血球数<4000または>12000/μL | 感染兆候として 複数のマーカーを併せて確認 |
尿量 | 0.5mL/kg/時未満 | 腎血流減少を示す |
意識レベル (全身麻酔以外) | 傾眠 混乱 反応鈍麻など | 脳灌流の低下を示唆 |
末梢循環 | 四肢冷感 皮膚色不良 毛細血管再充満時間延長 | 末梢循環障害としてのショック症状 |
対応
まとめ|血圧=「ただの数字」ではない!
術中の血圧変動は、患者の命に直結する臓器灌流のサインです。
新人看護師でも、「原因に応じたアセスメントと報告」ができれば立派なチームの一員。
恐れず、まずは血圧の意味と変動の背景を理解していきましょう!
【クイズ】こんな時あなたならどうする???
Case①:腹腔鏡下手術中の血圧低下
状況:腹腔鏡手術で気腹開始直後、MAPが55mmHgに低下。
Q1:あなたならまず、何を確認しますか?(複数選択)
A. 出血量の増加
B. トレンデレンブルグ位の有無
C. 尿量
D. 気腹圧
E. 皮膚の紅斑や発疹
答え&解説を見る
答え:B・D・C
Q2:この血圧低下の最も可能性が高い原因は?
A. 出血による循環血液量の減少
B. 血管拡張
C. 迷走神経反射
D. 心筋虚血
答え&解説を見る
答え:C
ポイント解説:
Case②:高齢患者の大腿骨骨折手術
状況:80代女性。大腿骨骨折に対して全身麻酔下に手術。導入後から徐々にMAPが60mmHg前後で経過。
Q1:この状況で何を特に注意すべき?(複数選択)
A. 心拍数の増加
B. 尿量の変化
C. 意識レベルの推移
D. 脳血流や腎血流の確保
E. 骨折部からの出血
F. 呼吸状態とSpO₂の変化
答え&解説を見る
答え:B・D・E・F
Q2:徐々に進む低MAPの影響として、起こりうることは?
A. 脳梗塞
B. 肝不全
C. 肺塞栓症
D. 腎性尿崩症
答え&解説を見る
答え:A・C
ポイント解説:
Case③:アナフィラキシーショック疑い
状況:抗生剤投与直後、MAP40mmHg、SpO₂低下、皮膚に紅斑出現。
Q1:すぐにすべき行動として正しいものは?(複数選択)
A. エピネフリンの準備と投与介助
B. 呼吸音の確認と酸素投与
C. 輸液負荷の準備
D. 麻酔科医への報告
F.原因薬剤の投与中止
答え&解説を見る
答え:A・B・C・D・F
Q2:この状態で最も危険なことは?
A. 出血による血圧低下
B. 心筋虚血
C. 気道閉塞による窒息
D. 尿量低下による腎機能障害
答え&解説を見る
答え:C
ポイント解説:
✨ まとめ:ケースから読み取る血流確保の視点
ケース | 臓器血流低下の主なリスク | 判断ポイント | 対応 |
---|---|---|---|
腹腔鏡手術 | 迷走神経反射 体位変化 | MAP 尿量 気腹圧 | 昇圧薬 体位調整 |
高齢患者手術 | 脳・腎への灌流低下 | 尿量 意識 覚醒遅延 | 昇圧薬 輸液 こまめな観察 |
アナフィラキシー | 気道閉塞+急速な循環障害 | 紅斑・SpO₂・MAP | エピネフリン 酸素 輸液 即報告 |
コメント