5分でわかる!術中バイタル管理【血圧編】低下時の原因とアセスメント

5分でわかるシリーズ!

血圧について詳しく見ていきましょう!!

  1. 血圧とは?【基礎、正常値】
    1. 収縮期血圧(SBP:Systolic Blood Pressure)
    2. 拡張期血圧(DBP:Diastolic Blood Pressure)
    3. 重要:平均血圧(MAP:Mean Arterial Pressure)
  2. 余談:なぜ脳や心臓の血流は、拡張期血圧が重要なの?
    1. 心臓(冠動脈)の場合
      1. ▶ 特に拡張期血圧が重要な理由
    2. 脳の場合
      1. ▶ 特に拡張期血圧が重要な理由
  3. 臓器血流と血圧の関係
    1. 覚えておきたい灌流の閾値
  4. 手術中の血圧低下の主な原因とアセスメント・対応
    1. 原因①循環血液量の減少
      1. 主な原因例
      2. アセスメント
      3. 対応
    2. 原因② 体液シフト(血管外漏出)
      1. 主な原因例
      2. アセスメント
      3. 対応:
    3. 原因③ 血管の拡張
      1. 主な原因例
      2. アセスメント
      3. 対応
    4. 原因④: 心拍出量の低下
      1. 主な原因例
      2. アセスメント
    5. 対応
    6. 原因⑤血管抵抗の変化
      1. 主な原因例
      2. アセスメント
    7. 対応
  5. まとめ|血圧=「ただの数字」ではない!
  6. 【クイズ】こんな時あなたならどうする???
    1. Case①:腹腔鏡下手術中の血圧低下
      1. Q1:あなたならまず、何を確認しますか?(複数選択)
      2. Q2:この血圧低下の最も可能性が高い原因は?
    2. Case②:高齢患者の大腿骨骨折手術
    3. Q1:この状況で何を特に注意すべき?(複数選択)
    4. Q2:徐々に進む低MAPの影響として、起こりうることは?
    5. Case③:アナフィラキシーショック疑い
    6. Q1:すぐにすべき行動として正しいものは?(複数選択)
    7. Q2:この状態で最も危険なことは?
  7. ✨ まとめ:ケースから読み取る血流確保の視点
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血圧とは?【基礎、正常値】

収縮期血圧(SBP:Systolic Blood Pressure)

  • 一般的な正常値:100〜130mmHg
  • 高すぎると → 高血圧、脳出血などのリスク
  • 低すぎると → 灌流不全(臓器に血液が届かない)に注意!

拡張期血圧(DBP:Diastolic Blood Pressure)

  • 一般的な正常値:60〜85mmHg
  • 低いと → 心臓や脳などへの血流が維持できない
  • 高すぎると → 血管に負担がかかりすぎる

重要:平均血圧(MAP:Mean Arterial Pressure)

収縮と拡張の平均的な圧力=臓器に血液を送り届ける力の目安
MAPは血圧モニタリングで最も重視される値のひとつです。

  • 計算式:
     MAP ≒(SBP + 2 × DBP)÷ 3

    例)SBP=120、DBP=60の場合
     MAP ≒ (120 + 2×60) ÷ 3
     = (120 + 120) ÷ 3
     = 240 ÷ 3 = 80mmHg
  • 正常値:65〜100mmHg
  • MAP<60mmHg:臓器灌流不全のリスクあり(特に腎・脳)

MAPは臓器への血液供給の指標であり、手術中の血圧管理で最も重視される値の一つです。
MAPが60mmHgを下回ると臓器灌流不全のリスクが高まるため、特に注意が必要です。

余談:なぜ脳や心臓の血流は、拡張期血圧が重要なの?

心臓(冠動脈)の場合

心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を届けているのが冠動脈です。
この冠動脈への血流は拡張期に増えるのが特徴です。

▶ 特に拡張期血圧が重要な理由

心筋は収縮期に血管が圧迫されるため血流が減り、拡張期に冠動脈血流が増加します。

拡張期に血流が増加する理由内容
① 筋肉の弛緩心筋が緩むことで、冠動脈が圧迫されなくなる
② 大動脈弁の閉鎖弁が閉じ、冠動脈の入り口に血液が流れ込める

💡拡張期血圧が低すぎると心筋に血流が届かず、心筋虚血の原因になることもあります。

脳の場合

脳は常に大量の酸素と栄養を必要とする臓器です。
生命維持にも重要な臓器で、脳血流は自己調節機能によって一定に保たれています。

▶ 特に拡張期血圧が重要な理由

  • 脳の血管(脳動脈)は、拡張期にも血流を受け取るようにできています。
  • 拡張期血圧が低下すると、脳血流も減少し、意識消失やめまい、失神などを引き起こすことがあります。
  • 拡張期血圧が極端に低下すると自己調節が追いつかず、血流不足に陥ります。

💡高齢者では、拡張期血圧が下がりすぎることで脳貧血を起こしやすくなるため、注意が必要です。

臓器血流と血圧の関係

臓器に十分な酸素と栄養を届けるためには、「臓器灌流(かんりゅう)」が保たれていることが重要です。
これが不足すると、臓器は正常に機能できなくなり、やがて不可逆的な障害につながることもあります。

覚えておきたい灌流の閾値

臓器最低限必要なMAPの目安特徴・注意点
60~70 mmHg
以上
脳には自己調節能(オートレギュレーション)がある
MAP60mmHgを下回ると灌流が保てなくなるリスクがあります。
※重症患者や高齢者ではこの機能が低下していることもあるため注意が必要。
心臓60 mmHg
以上
心筋(心臓の筋肉)への血流が低下すると、酸素不足から心筋虚血を起こします。
これは胸痛や不整脈、心停止につながる可能性もあるため、MAPはしっかり維持する必要があります。
腎臓65 mmHg 以上腎臓は灌流低下に非常に敏感で、血流が減るとすぐに尿量が減少します。
尿量<0.5ml/kg/hrは警戒。
長期間の低灌流は急性腎障害(AKI)の原因になる。
尿量の変化は、腎血流の指標として重要です。
肝臓60 mmHg 以上肝臓は比較的灌流低下に耐える力があります。
60mmHgを下回ると、肝酵素の上昇や代謝機能の低下といった問題が出る可能性があります。特に出血性ショックや敗血症では注意が必要です。

手術中の血圧低下の主な原因とアセスメント・対応

原因①循環血液量の減少

主な原因例

  • 出血
    (術中・術後ドレーンからの出血)
  • 脱水
    (術前の絶飲食、下剤使用など)

アセスメント

項目判断の目安補足
出血量500mL以上で注意、
1000mL以上で輸血検討
術中出血量
ドレーン排液なども確認
尿量0.5mL/kg/時未満
(例:50kg → 25mL/時以下)
継続して減少しているか
経時的に観察
CVP
(中心静脈圧)
4〜10cmH₂Oが正常
4cmH₂O以下で血液量減少を示唆
CV挿入時のみ確認可能
末梢循環四肢冷感
皮膚の蒼白
末梢冷却
末梢循環不全を示唆

対応

  • 血圧低下+出血量増加があれば術者・麻酔科医へ即報告
  • 輸液・輸血準備を支援
  • 尿量は15〜30分おきに確認、減少傾向が続けば医師に報告

原因② 体液シフト(血管外漏出)

主な原因例

  • 腹腔鏡手術
    (気腹による腹腔内圧上昇)
  • 炎症反応や全身性浮腫
    (熱傷、大手術)
  • 術中の大量輸液による血管透過性の変化

アセスメント

項目判断の目安補足
血圧MAP<65mmHg出血がないのに
血圧低下が続く場合は要注意
尿量0.5mL/kg/時未満体液が血管外に漏れ、
腎血流が減少している可能性
CVP
(中心静脈圧)
4cmH₂O以下実質的な循環血液量が減っている証拠
末梢循環四肢冷感
皮膚色の変化
末梢冷却
出血時と似た症状だが、
出血量が少ない点に注目

対応:

  • 多角的アセスメントを実施し、出血以外の原因として体液シフトを提案
  • 医師へ報告し、輸液量・内容の調整をサポート
  • 腹腔内圧の調整(気腹解除など)のタイミングで血圧変化を観察

原因③ 血管の拡張

主な原因例

  • 麻酔薬
    (プロポフォール、セボフルランなど)
  • アナフィラキシー反応
    (抗生剤・造影剤など)

アセスメント

項目判断の目安補足
血圧変動麻酔導入後に収縮期血圧が30mmHg以上低下特にプロポフォール・セボフルラン導入時に起こりやすい
SpO₂90%未満アナフィラキシーで気道狭窄がある場合に低下
皮膚症状紅斑
蕁麻疹
発赤
アレルギー性反応の指標
末梢温末梢が温かい場合、血管拡張を示唆血流が過剰に末梢へ流れている状態

対応

  • 昇圧薬の準備・介助
    (エフェドリン5〜10mg、フェニレフリン50〜100μg)
  • アナフィラキシー時
    エピネフリン0.1〜0.5mg(筋注またはIV)
    全身麻酔でない場合は、呼吸状態に応じて酸素投与
  • トレンデレンブルグ位などで脳血流を確保

原因④: 心拍出量の低下

主な原因例

  • 徐脈
    (迷走神経刺激や麻酔薬)
  • 心室性不整脈
  • 心筋虚血・梗塞

アセスメント

項目判断の目安補足
心拍数徐脈(50回/分以下)
頻脈(100回/分以上)
麻酔薬
迷走神経反射
不整脈などに注意
心電図PVC、VTなどの不整脈を確認心室性不整脈
虚血波形にも注意
末梢循環末梢冷感
脈拍触知困難
意識レベルの変化
心拍出量が低く
脳・末梢血流が不足している
意識レベル
(全身麻酔以外)
眠気
混乱
反応遅延
脳血流不足のサイン

対応

  • アトロピン0.5mg IVの準備・投与介助
  • 必要時、ペーシングサポート(外部または内部)
  • 酸素投与・気道確保・循環補助を迅速に

原因⑤血管抵抗の変化

主な原因例

  • 敗血症
    (感染性ショック)
  • アナフィラキシー
    (アレルギー性ショック)

アセスメント

項目判断の目安補足
体温38.5℃以上(高熱)
35℃以下(低体温)
体温の上昇は
敗血症性ショック
重篤な感染時に出現
炎症マーカーCRP>10mg/dL
白血球数<4000または>12000/μL
感染兆候として
複数のマーカーを併せて確認
尿量0.5mL/kg/時未満腎血流減少を示す
意識レベル
(全身麻酔以外)
傾眠
混乱
反応鈍麻など
脳灌流の低下を示唆
末梢循環四肢冷感
皮膚色不良
毛細血管再充満時間延長
末梢循環障害としてのショック症状

対応

  • 原因薬剤の投与を中止する
  • 医師に即時報告し、昇圧薬(ノルアドレナリン等)の準備
  • 呼吸循環の安定化のサポート

まとめ|血圧=「ただの数字」ではない!

術中の血圧変動は、患者の命に直結する臓器灌流のサインです。
新人看護師でも、「原因に応じたアセスメントと報告」ができれば立派なチームの一員。
恐れず、まずは血圧の意味と変動の背景を理解していきましょう!

【クイズ】こんな時あなたならどうする???

Case①:腹腔鏡下手術中の血圧低下

状況:腹腔鏡手術で気腹開始直後、MAPが55mmHgに低下。

Q1:あなたならまず、何を確認しますか?(複数選択)

A. 出血量の増加
B. トレンデレンブルグ位の有無
C. 尿量
D. 気腹圧
E. 皮膚の紅斑や発疹

答え&解説を見る

答え:B・D・C

Q2:この血圧低下の最も可能性が高い原因は?


A. 出血による循環血液量の減少
B. 血管拡張
C. 迷走神経反射
D. 心筋虚血

答え&解説を見る

答え:C

ポイント解説:

  • 気腹による腹圧上昇で迷走神経が刺激され、一過性の徐脈・血圧低下を引き起こす。
  • 体位変化(トレンデレンブルグ位)や血管拡張も複合的に関与する。
  • 出血がないことを確認したうえで、**輸液負荷+昇圧薬(エフェドリンなど)**で早期対応が重要。

Case②:高齢患者の大腿骨骨折手術

状況:80代女性。大腿骨骨折に対して全身麻酔下に手術。導入後から徐々にMAPが60mmHg前後で経過。


Q1:この状況で何を特に注意すべき?(複数選択)

A. 心拍数の増加
B. 尿量の変化
C. 意識レベルの推移
D. 脳血流や腎血流の確保
E. 骨折部からの出血
F. 呼吸状態とSpO₂の変化

答え&解説を見る

答え:B・D・E・F

Q2:徐々に進む低MAPの影響として、起こりうることは?

A. 脳梗塞
B. 肝不全
C. 肺塞栓症
D. 腎性尿崩症

答え&解説を見る

答え:A・C

ポイント解説:

  • 高齢者では自己調節機能が低下しており、MAP≦60mmHgでは脳・腎への灌流不足のリスク。
    特に術後の覚醒遅延や腎機能障害に注意。
  • 大腿骨骨折では、術前から出血している可能性があります。
    大腿骨骨幹部骨折だけで1,000〜1,500mLの出血があることも。
    目に見えない出血量に注意。
  • 慢性的な低MAP状態では、脳灌流圧が保てず虚血性変化(=脳梗塞)のリスク。
  • 長期臥床+骨折手術により血栓が生じやすい状態
    それが術中や術直後に肺血栓塞栓症(PTE)として現れることがある。

Case③:アナフィラキシーショック疑い

状況:抗生剤投与直後、MAP40mmHg、SpO₂低下、皮膚に紅斑出現。

Q1:すぐにすべき行動として正しいものは?(複数選択)

A. エピネフリンの準備と投与介助
B. 呼吸音の確認と酸素投与
C. 輸液負荷の準備
D. 麻酔科医への報告
F.原因薬剤の投与中止

答え&解説を見る

答え:A・B・C・D・F

Q2:この状態で最も危険なことは?

A. 出血による血圧低下
B. 心筋虚血
C. 気道閉塞による窒息
D. 尿量低下による腎機能障害

答え&解説を見る

答え:C

ポイント解説:

  • アナフィラキシーではまず気道確保!
    SpO₂低下=気道狭窄の兆候
  • 皮膚症状(紅斑・蕁麻疹)、血圧急低下、呼吸状態の変化が出たら即座にアナフィラキシーを疑う
  • 対応はエピネフリン IMまたはIV(0.1〜0.5mg)酸素+輸液昇圧薬、医師との連携が鍵。

✨ まとめ:ケースから読み取る血流確保の視点

ケース臓器血流低下の主なリスク判断ポイント対応
腹腔鏡手術迷走神経反射
体位変化
MAP
尿量
気腹圧
昇圧薬
体位調整
高齢患者手術脳・腎への灌流低下尿量
意識
覚醒遅延
昇圧薬
輸液
こまめな観察
アナフィラキシー気道閉塞+急速な循環障害紅斑・SpO₂・MAPエピネフリン
酸素
輸液
即報告

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